11-5-2 死後観(2)科学から:臨死体験

仏教と科学

 “絶対に”解明できないと思いつつ、それでもいくつかの“科学的”アプローチがある。

臨死体験検証

多分、一番有名なのは「臨死体験(Near-Death Experience, NDE)」だろう。
アメリカの精神科医レイモンド・ムーディー(Raymond A. Moody, Jr.)は1975年に『かいま見た死後の世界(Life After Life)』を著した。

ムーディーの本は、高野山大学前学長添田隆昭氏(2021.4-2025.3)が書いた『大師はいまだおわしますか』[1]に詳しく引用されていたので、高野山大学の学生で知る人は多いだろう。

ムーディーは、死の“瀬戸際”から生還した患者たちの体験を集め、その共通点を拾い出し整理した。典型的な臨死体験は、以下にまとめられた。

(1)自分の身体を離れて上方から見下ろす体外離脱感

(2)暗いトンネルを通過する感覚

(3)まばゆい光の存在との出会い

(4)過去の出来事が瞬時に再現される「走馬灯」体験

(5)言葉を超えた平安感や至福感

これらは世界の文化や宗教の違いを超えて報告されることが多く、ムーディーはそこに「死後世界」の証拠を読み取ろうとした。

臨死体験(まばゆい光の存在、イメージ図)

ちょっと無理があると思うが、、、

当然、学術的な世界では批判もあった。

  • 症例の収集方法が厳密でなく、統計的分析も行われていない。

  (それ、学者さんは突っ込むな〜〜)

  • 臨死体験の要素が「脳内の生理現象」として説明できる可能性
  • トンネル状の光景が見えることについて、酸素欠乏(脳の低酸素状態)による視覚野の異常活動が起こる。
  • エンドルフィン(内因性モルヒネ様物質)が恍惚感や痛みの消失をもたらし、「光に包まれる至福感」として体験される。

そのため、1980年代以降、神経科学や心理学の研究者たちは、臨死体験を「死後世界の証拠」ではなく、「極限状態における脳の反応、脳内イメージ」として分析しようと大々的な試みを行った[2]。しかしながら、臨死体験を単なる幻覚や薬理作用に還元することには抵抗もあるようだ[3]


体外離脱

もう一つの論点は、「体外離脱」だ。

臨死体験者はしばしば、自分の身体を外から見下ろしたり、手術室の器具や医師の動きを「第三者視点」で正確に描写したと語る。この点を検証するため、実験的に「病室の天井の上に患者からは見えない絵や文字を置く」という試みが行われてきた(例えば、サム・パーニアらによるAWARE研究[4]
しかし、まだ、体外離脱を客観的に裏づける決定的な証拠は得られていない。

記憶の混乱や事後の想像の入り込みを完全に排除できないのだ。
(そりゃそうだ、人間死にかける時、また生還した時、色々なことを思うだろうから!)

臨死体験は「死に直面したときの人間の心のはたらき」を示しているのかもしれないが、「死後世界の証明」としては不十分だ。

でも、なぜ、
人間は死に際して光や愛の存在を幻視するのか。
それが人生を変えるほど深い感銘を与えるのか。
体外離脱を経験するのか。

その背後には、神経生理学的なプロセスと霊的な体系との交わりや相互作用があるのかもしれない
(と、考えてしまう。少なくとも、今の科学では分からない)

絶対に“正解のない”問題への挑戦だ!


[1] 添田隆昭、『大師はいまだおわしますか』、2010、高野山出版社

[2] 例えば、カール・ヤンセン(Karl Jansen)は、解離性麻酔薬ケタミンを投与した被験者が臨死体験に酷似した体験を報告することに注目し、臨死体験を「脳内NMDA受容体の機能不全」と関連づけて説明した。また、幻覚性の体験を引き起こす薬物(LSD、DMTなど)との比較研究も行われ、体外離脱感や光体験の神経基盤が徐々に議論されるようになった。

[3] 臨死体験を体験した人々がしばしば「死生観の根本的な変化」や「人生観・宗教観に大きな影響」を報告する。彼らはしばしば「死の恐怖が消えた」「他者への共感や愛が深まった」と語る。こうした心理的・倫理的な変容は、単なる幻覚体験とは質的に異なるものではないか、との主張もある。さらに、視覚障害者が臨死体験において「視覚的イメージ」を体験したとの報告もあり、「単なる脳内イメージの再生では説明できない」とする議論もある。

[4] Parnia S, Spearpoint K, de Vos G, Fenwick P, Goldberg D. AWARE—AWAreness during REsuscitation—a prospective study. Resuscitation. 2014 Dec;85(12):1799-805. doi: 10.1016/j.resuscitation.2014.09.004

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