1 インド中期密教の特徴

インド中期密教

雑然と大乗仏教と密教的要素が混在した初期密教の時代において、「初期密教の初期」ではヒンズー経の影響で現世利益の呪文や陀羅尼が急激に増えた。

しかし、「初期密教の後期」では悟りや解脱の願文や真言が増え、また悟りを求める仏教に戻ってきた。

そして、6〜8世紀を中心とする時期に、「中期密教」が始まり、隆盛を極める。「初期密教」から次第に体系的・儀礼的に洗練されていったのだ。

まず、インド中期密教の特徴を、大乗仏教からの変化に注目して述べる。教理については、大乗仏教と大きく差はなく、その儀礼修法の変化が大きな特徴なのだ。

  • 教理:衆生救済(利他)の精神は中期密教でも変わらず、大乗仏教の基本的な枠組みを受け継いでいる。空の思想を前提とし、菩薩行が重視され、如来蔵思想も取り入れられている。ただし、密教ではこれらの教理が、観想や儀礼を通して実践的に体現される点に特徴がある。この実践が特徴なのだ!
  • 主尊:もともと、主尊は「目覚めた釈迦=ブッダ」のはずが、大乗仏教になり、『華厳経』などにあるように、大乗仏教では、悟ったブッダは過去から存在し、真理そのもの(法身)だという考えになる。さらに密教では大日如来を宇宙の根本原理として位置づけ、仏は宇宙そのものであるとする思想が展開された。そして、曼荼羅によってその宇宙的構造が視覚的に示されたのだ。
  • 実践:大乗仏教では、六波羅蜜を通して悟りに至ろうとする自己努力が中心だが、密教では修行者が仏の加持力(神秘的な力)を積極的に取り込み、迅速に悟りに近づくことが可能とされる。
  • 修行形態:大乗仏教では説法・瞑想・般若の完成が重視されたが、密教では「三密行」(手に印を結び〔身密〕、口に真言を唱え〔口密〕、心で仏を観想する〔意密〕)が中心となる。密教の代名詞にもなる。身体・言葉・心を統一することで仏と一体化する修行だ。
  • 曼荼羅:仏の世界、すなわち宇宙の構造を可視化した図像であり、観想によって自らがその構造の中にあることを自覚し、仏との一体化を目指す重要な修行の道具である。
  • 護摩:もとはバラモン教起源のホーマ(供犠)の儀礼が、密教に取り入れられ、火中に供物や願文を投じて現世利益や滅罪、成就などを祈願する重要な修法となった。これは大日如来の智慧の火によって世界を浄化・変容させるという思想に基づいているようだ
  • 成仏時間:顕教では成仏に三劫という長い時間が必要とされるのに対し、密教ではこの身このままで仏になる「即身成仏」が可能とされる。その思想的源流は『大日経』『金剛頂経』などに見られるが、空海がこれを明確に体系化し、『即身成仏義』として教理的に確立した。

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