日本とそれ以外(チベット、インド、西洋)の国では密教の分類が異なる。これは、空海の真言密教が日本にはあるためだ。
チベット、インド、西洋の国では、密教はその内容によって、以下の4つに分類される。
- 所作タントラ:外的な行(所作)、すなはち、潔斎・清浄・供養・沐浴などの修行が中心。
- 行タントラ:内面的な修行に比重を移しつつ、外的儀礼も残す段階。日本では、『大日経』が含まれる。
- 瑜伽タントラ:瑜伽タントラは外的儀礼をほとんど排し、内的な瞑想(観想と仏との合一)が中心。ここに日本では『金剛頂経』が代表的な経典だ。日本以外では、この分類に『大日経』が含まれる場合が多い。
- 無上瑜伽タントラ:密教の最上位に位置する高度なタントラで、後期密教に分類され、のちに述べる生起次第と究竟次第から成る二段階の実践が行われる。これらタントラは「般若父タントラ」(代表:『秘密集会タントラ』)と「方便母タントラ」(代表:『ヘーバジュラタントラ』)に分類される。
一方、日本では、以下のように分類される。
- 初期密教:大乗仏教と密教が入り混じった状態で雑密という。外的な行(所作)が中心となり、チベット分類では「所作タントラ」とほぼ同じ。
- 中期密教: 行タントラである『大日経』と瑜伽タントラである『金剛頂経』を中心に据え、空海が作りあげた真言密教を指す。
- 後期密教:『金剛頂経』より後の経典をさす。チベット分類では、無上瑜伽タントラに対応する。
日本の中期密教は『大日経』、『金剛頂経』を中心とする空海が持ち帰った両部曼荼羅の世界である。中期密教は別名「純密」と呼ばれ、純粋な密教を意味し、初期密教は「雑密(雑部密教)」と呼ばれ、大乗仏教と密教が混じった雑多なものを意味する。この命名からもわかるが、あくまでも空海の真言密教が純粋で、宗教的に正しい姿としようとする意図が読み取れる。日本の分類は、このようなに真言密教の影響が強いと思われる。
コメント===>日本では、空海の真言密教の影響が絶大だ。『大日経』は行タントラ、『金剛頂経』が瑜伽タントラであり、別の系統に属する経典だ。しかし、空海はそれぞれの曼荼羅(「胎蔵曼荼羅」、「金剛界曼荼羅」)を結びつけて、不二の曼荼羅とした。この流れでは、『大日経』と『金剛頂経』は別であってはならない。
しかし、日本・中国以外では、『大日経』と『金剛頂経』は別の分類にある。例えば、後期密教(もしくは無上瑜伽タントラ)の時代に入ると、『大日経』系はすたれ、『金剛頂経』系の経典が爆発的に流行る。まるで別物として扱われる。この点から見ても、真言密教は、中国・日本独自の密教なのだ。
コメント===>日本でのこの分類は、どうしても宗門(真言宗)の影響が強い。宗祖(空海)が作り上げた真言宗をインド後期密教と一緒にすることなど、許されない。学術界の方々の中には、チベットや西洋的な分類を好む方もおられるようだが、、、
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