雑然と大乗仏教と密教的要素が混在した初期密教の時代において、「初期密教の初期」ではヒンズー経の影響で現世利益の呪文や陀羅尼が急激に増えた。しかし、「初期密教の後期」では悟りや解脱の願文や真言が増え、また悟りを求める仏教に戻ってきた。大塚伸夫の研究でみた通りだ。
そして、6〜8世紀を中心とする時期に、「インド中期密教」が始まり、隆盛を極める。「初期密教」から次第に体系的・儀礼的に洗練されていったのだ。
まず、インド中期密教と空海真言密教を比べ、その特徴を浮かび上がらせよう。空海は密教を唐の恵果和尚から受け継いだ。そのことも考慮し、中国での密教の特徴も含めて、インド中期密教 → 中国密教(唐代) → 日本真言密教(空海)の流れを表にすることを試みた。
| 項目 | インド中期密教(7〜9C) | 中国密教(唐代) | 日本 真言密教(空海) |
| 成立背景 | 瑜伽タントラ期。『大日経』、『金剛頂経』などが成立。インド的世界観と儀礼が確立する。 | 善無畏・金剛智・不空らが翻訳、整理した。唐王朝の国家鎮護、仏教儀礼に採用され国家仏教として受け入れられた。 | 空海が長安で恵果から全法を受け帰国した。少し時間がかかるが日本の朝廷に受け入れられた。神道と融合(神仏習合)。 |
| 根本仏 | 大日如来 | 大日如来 | 大日如来(胎蔵界・金剛界の両面) |
| 教理の特徴 | 即身成仏思想は萌芽段階であった。曼荼羅・真言・印契の象徴体系が確立する。 | 即身成仏が明確化され、両部曼荼羅の体系化が始まる。 | 即身成仏を、三密行や『十住心』により、論理的・哲学的に体系化した。 |
| 曼荼羅 | 初期の単一曼荼羅(例:金剛界単独)であった。 | 両界曼荼羅(胎蔵・金剛界)の原型を作り出す。 | 胎蔵・金剛界曼荼羅の完全体系化をなす。 |
| 儀礼・実践 | 比較的簡略。師弟間の口伝中心であった。 | 儀軌を文章化し、灌頂・修法体系を整備した。 | 儀軌を精緻化。国家儀礼・寺院法会・民間信仰に拡大させた。師弟間の口伝は薄まった。 |
| 師資相承 | 師から弟子への密伝が中心で、宗団組織は未発達であった。 | 師資相承が制度化され、翻訳経典で共有化した。 | 伝法灌頂、阿闍梨資格など厳格な制度化を行った。 |
| 文化的特徴 | インド的宇宙観・神々の体系となした。 | 中国儒教・道教の影響で儀礼や象徴が変容した。 | 日本的神仏習合や王権儀礼と融合した。 |
こうしてみると、インド中期密教に比べ、空海密教の特徴として、1)両部曼荼羅の考えが成立したこと、2)師から弟子への密伝が国家儀礼として体系化されたこと、3)即身成仏の思想を体系化、精密化したこと、4)文化的な背景から日本的神仏習合が成立したことが、浮かび上がる。




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