9-2 インド中期密教の特徴

インド中期密教

雑然と大乗仏教と密教的要素が混在した初期密教の時代において、「初期密教の初期」ではヒンズー経の影響で現世利益の呪文や陀羅尼が急激に増えた。しかし、「初期密教の後期」では悟りや解脱の願文や真言が増え、また悟りを求める仏教に戻ってきた。大塚伸夫の研究でみた通りだ。

そして、6〜8世紀を中心とする時期に、「インド中期密教」が始まり、隆盛を極める。「初期密教」から次第に体系的・儀礼的に洗練されていったのだ。

まず、インド中期密教と空海真言密教を比べ、その特徴を浮かび上がらせよう。空海は密教を唐の恵果和尚から受け継いだ。そのことも考慮し、中国での密教の特徴も含めて、インド中期密教 → 中国密教(唐代) → 日本真言密教(空海)の流れを表にすることを試みた。


項目インド中期密教(7〜9C)中国密教(唐代)日本 真言密教(空海)
成立背景瑜伽タントラ期。『大日経』、『金剛頂経』などが成立。インド的世界観と儀礼が確立する。善無畏・金剛智・不空らが翻訳、整理した。唐王朝の国家鎮護、仏教儀礼に採用され国家仏教として受け入れられた。空海が長安で恵果から全法を受け帰国した。少し時間がかかるが日本の朝廷に受け入れられた。神道と融合(神仏習合)。
根本仏大日如来大日如来大日如来(胎蔵界・金剛界の両面)
教理の特徴即身成仏思想は萌芽段階であった。曼荼羅・真言・印契の象徴体系が確立する。即身成仏が明確化され、両部曼荼羅の体系化が始まる。即身成仏を、三密行や『十住心』により、論理的・哲学的に体系化した。
曼荼羅初期の単一曼荼羅(例:金剛界単独)であった。両界曼荼羅(胎蔵・金剛界)の原型を作り出す。胎蔵・金剛界曼荼羅の完全体系化をなす。
儀礼・実践比較的簡略。師弟間の口伝中心であった。儀軌を文章化し、灌頂・修法体系を整備した。儀軌を精緻化。国家儀礼・寺院法会・民間信仰に拡大させた。師弟間の口伝は薄まった。
師資相承師から弟子への密伝が中心で、宗団組織は未発達であった。師資相承が制度化され、翻訳経典で共有化した。伝法灌頂、阿闍梨資格など厳格な制度化を行った。
文化的特徴インド的宇宙観・神々の体系となした。中国儒教・道教の影響で儀礼や象徴が変容した。日本的神仏習合や王権儀礼と融合した。

こうしてみると、インド中期密教に比べ、空海密教の特徴として、1)両部曼荼羅の考えが成立したこと、2)師から弟子への密伝が国家儀礼として体系化されたこと、3)即身成仏の思想を体系化、精密化したこと、4)文化的な背景から日本的神仏習合が成立したことが、浮かび上がる。

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