プロローグ1 退職

プロローグ

2020年4月8日、私は水戸から東京へ車を走らせていた。ちょうど、コロナにより東京に非常事態宣言が出された日であった。

3月末日に、職場を退職して、実家のある滋賀に戻るときであった。元々が関西の生まれなので、せっかくの機会と思い、東京をこえて、熱海、伊豆で少しのんびりすごし、滋賀に帰る予定で動いていた。仕事を退職して、少しホットした感覚と同時に、これからどのように過ごしていくかを考え、なんとなく暗い気持ちがあったことも確かであった。それにコロナが追い打ちをかけていた。

私自身のことはおいおい話をしていくとして、話を数ヶ月前に戻そう。茨城県に単身赴任して約5年が経っていた。退職も決まり、今後の計画を考える。世でいう「濡れおちば」生活か、これまでの仕事の延長で、論文を読んだり書いたりして過ごす日々も考えていた。こんな状態で、毎日家に居られると最も迷惑するのは家内である。彼女も考えていてくれたのであろう。いつだったかは正確に覚えていないが、ある提案をしてくれた。

「高野山大学で、社会人学生を募集しているよ」

彼女のボランティア活動の一環として、高野山大学の先生を講師に迎えた講演会をしたとき、そんな話を聞いたようだ。高野山は空海が開いた日本真言密教の聖地、そこで密教を中心に仏教を教える大学である。

考えてみた。これまで仏教との繋がりなんて全くなかった人間が急に仏教を学ぶ、それに信心なんて全くない、おもろいはずがない。

「いやいや、待てよ。」

「それほど酷い話でもないか」

頭の中でいろんな思いがよぎった。

「うちの父は、真言宗ではないが寺の出身」

「仏教は、かなり論理的な宗教と聞く」

「あの湯川秀樹が、空海を褒めちぎってたな〜」

「とりあえず、ダメもとで、受験してみるか」

ここから、この物語が始まる。

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