プロローグ3 第二の人生

プロローグ

現実的な問題である「退職後の第二の人生」について書いておこう。最初に述べたように、私が退職後高野山大学に入学したのは、退職後の一つの生活の始まりとしての選択だった。会社や役所などある組織に所属して働いていた人が定年を迎え、第二の人生をどのように過ごしていくかは、難しい。特に我々ぐらいの高度成長期に育った世代で、あまり余暇の過ごし方を知らないおっさんにとっては、大問題である。まあ、「濡れおちば」生活にならないように、いくつかの可能性はすぐに思いつく。もちろん、再就職という可能性もある。ただ、それも定年を引き延ばしているに過ぎない。では、そのあとは?

退職までは、ご近所や地域の人との交流は、奥さん連中が請け負っていることが多く、おじさんたちの付き合いは薄い。退職したからといって、急に近所や地域の人との付き合いが深まるわけではない。持て余した時間をどのように使うかは大問題である。

一番毛嫌いされるのは、一日中家にいてテレビを見ながらゴロゴロしているおっさんだろう。これまで家に居なかった「生き物」が急に出現するわけなので、家を支配していた奥様たちは、今までの付き合いや自分のルーティーンがあるなか、急な事情の変化が面白くないのは当然だろう。その上、朝、昼、夜と

「お腹が減った、ご飯まだ〜〜」

と聞かれたら、鬱陶しいに決まっている。

さらには、テレビを好き勝手に観るおっさんがいる。

「私、この時間はこのドラマ見ていたのよ。勝手にチャンネルを変えないでちょうだい」

と言われるのは、目に見えている。

比較的歓迎されるのは、ゴルフやジョギングなどスポーツに励むおっさんである。

多少金はかかっても、家に毎日家にいるおっさんよりは歓迎される。それに何より、健康にいい。多くの年寄りは、みんな「ピンピンコロリ」が理想だという。そのためにも、体を適度に鍛えておくのは重要だ。

そんなわけで、なんとなく退職後に行うことで、重要と思っていたのは、新たな人間関係を築けること、外に出ること、それが楽しい時間であること、体を使うこと、ある程度入っていきやすくそして緊張感を持てることなどである。一人でやるとすぐに限界がくる、楽しくなければ続かない、体力がなければ何もできない、緊張感がなければすぐに易きに流れ老いてしまう。そんな単純な理由からである。

具体的に考えても、ゴルフなどのスポーツをやる、音楽や絵画などの趣味を伸ばす、好きな史跡を巡る、国内や国外の旅行をする、歴史や思想など文化を学ぶなど、すぐにいくつか思いつくが、まあそれはどれでもいい。人によって好みや向き不向きはあるのだから。

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